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ライアン・ラーキン
路上に咲いたアニメーション
2009年9月19日公開
たった4本の短編で世界を魅了した伝説のアニメーション作家、ライアン・ラーキンが遺した5つの奇蹟。
1965年から72年にかけて、たった4本の短編作品を残し、2007年に惜しくもこの世を去った伝説のアニメーション作家、ライアン・ラーキン(1943-2007)。短い活動期間に生み出した作品は、アカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされた代表作『ウォーキング』をはじめ世界中で称賛を浴び、彼はNFB(National Film Board of Canada:カナダ国立映画製作庁)のホープと讃えられた。しかし、名声に包まれた生活と創作へのプレッシャーの中で徐々に追い込まれていった彼は、アルコールとコカインに蝕まれ、やがてNFBを辞職。その後、路上生活者となり、道行く人に小銭を求めて生きることを選ぶ。そして、4本の秀作と共に、いつしかその存在をも忘れ去られた世捨て人となってしまうのだった。
ホームレスになって長い年月が過ぎたある日、いつもと同じように街で物乞いをしていたライアンの姿を、オタワ国際アニメーション・フェスティバルのスタッフが偶然発見する。話を伝え聞いたフェスティバル・ディレクターのクリス・ロビンソンは、創作活動への復帰を願い、彼を映画祭の審査員に迎え入れた。その映画祭で、ライアンはCGアニメーション作家クリス・ランドレスに出会うのだった。
やがて、ライアンの作品とその生き方に強い衝撃を受けたクリスは、ホームレスの支援施設に暮らすライアンを訪れ、彼へのインタビューを試みた。独特の雰囲気、クリエイティブな思考、そして数奇な人生。ライアンの口から語られる一言一言に心揺さぶられたクリスは、その短い面会の様子を、自らの手でCGアニメーションとしてひとつの作品へと昇華させた。完成した短編作品『ライアン』は、彼がライアンから感じたインスピレーションのままに、ブッ飛んで、ユニークで、人間愛に満ちた秀作であった。そして同作品は2005年、アカデミー賞短編アニメーション部門でオスカーを受賞。これにより、忘れられた天才作家、ライアン・ラーキンの名が再び世界に知れることになるのである。
『ライアン』の成功と前後して、カナダの人気バンド、チワワのボーカルでもある女性ローリー・ゴードンが、未だホームレス生活を続けるライアンに、創作活動への復帰の道を指し示した。金と欲にまみれた世間から離れ、路上で暮らす生活に満足していると語るライアンを説得し、彼女は自宅に彼を迎え入れた。そして、プロデューサーとして待望の新作をバックアップし始めたのだ。『スペア・チェンジ 小銭を』と名付けられた作品は、路上生活での体験をベースに、そこで見出した人間への鋭い観察と深い愛情に満ちた傑作になるはずだった。しかし、制作が進み、2008年の完成を目指すさなかに、ライアンは肺ガンにより、この世を去ってしまった。2007年2月14日、享年63歳。栄光と苦悩、人間への憤り、そして誰よりも深い愛情を持った奇蹟のアニメーション作家の生涯は、静かに幕を閉じた。大好きな動物たちと、温かい人々に囲まれたベッドの中で…。
だが、ライアンの物語にはまだ続きがあった。その死から2年近くが経過した2008年の冬、彼が亡くなる直前まで描き続けたドローイングを基に、ローリーをはじめとする仲間のクリエイターたちの手によって、待望の新作『スペア・チェンジ 小銭を』が遂に完成されたのだ。ライアンにとって、実に35年ぶりとなる復帰作にして、遺作である。
この『ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション』では、ライアン・ラーキン自身が生前に残した4本の短編全作品と、死後に完成された35年ぶりの新作『スペア・チェンジ 小銭を』に加え、先述のアカデミー賞受賞作『ライアン』(クリス・ランドレス監督)、そしてライアンと周辺の人々へのインタビューを収めたドキュメンタリーのダイジェスト映像を一挙上映。波乱に満ちた生涯と、彼が残した偉大な軌跡を振り返る。中でもライアンの手掛けた作品群は、1枚1枚丹念に手書きで描かれ、シンプルな題材の中にも鋭い人間観察、孤独と温かな愛情が共存し、今も多くのクリエイターたちがリスペクトを捧げている。