『人体の構造について』

INTRODUCTION
初監督作『リヴァイアサン』(04)で圧倒的な映像体験を“発明”し、世界的な名声を集めたルーシァン·キャステーヌ=テイラーとヴェレナ·パラベルのハーバード大学感覚人類学研究所の人類学者監督コンビ。2人が新作のテーマに選んだのは、最も身近ながら神秘のベールに包まれた「人体」だった。 これは「人体」が最大の関心事となる場所=パリ北部近郊の5つの病院のオペ室を舞台に展開する “21世紀の人体解剖書”である。医師視点のカメラや内視鏡を使い、脳や大腸、眼球、男性器など様々な外科手術や帝王切開の模様を医師の視点で見つめていく。それらの映像は思わず目をそむけたくなるほどの生々しさと同時に、肉体が持つ生命力や美しさを感じさせてくれる。また、普段はカメラが入ることのできない死と隣り合わせの職場における医療従事者達の心境や、死体安置所でのおくりびと達の仕事ぶりなど、非常に貴重な映像で構成されており、医療とは何か?肉体と魂とは何か?人体の神秘と人間の恐怖の根源を探るドキュメンタリーに仕上がっている。 本作はまた、カンヌ国際映画祭監督週間で上映されたのち、現在もメタクリティックのスコア92、ロッテントマト95%FRESHという高評価を集めている。また、デヴィッド·ロウリー監督(『グリーン·ナイト』『さらば愛しきアウトロー』)が年間ベストに選ぶなど、映画人からの評価も高い。日本でも今年3月にTBSドキュメンタリー映画祭の海外招待作品としてプレミア上映され、今回、TBS DOCSが初めて買い付けた洋画作品として待望の一般公開となる。
STORY
パリのとある大病院。当直の看護婦たちの会話。「集中治療室で働くと、毎日死と向き合うから『今日を楽しまなければ』と思うの」。別の部屋では脳に小さな穴を空ける手術が行われている。内視鏡の映像は脳を内部から治療する様子をモニターに映し出す。あるオペ室では、あまりの忙しさに医師が愚痴をこぼす。「毎週100人の患者を診て20人手術している…異常だ」病院の大動脈のような廊下を徘徊するのは、個室を抜け出した認知症患者とそれを追う医師たち。静かな時を刻んでいた地下の遺体安置所にも、次々と新たな遺体が運ばれてくる。長い1日はまだ始まったばかりだった…
STAFF
監督
ルーシァン·キャステーヌ=テイラー
ヴェレナ·パラベル
ルーシァン·キャステーヌ=テイラーとヴェレナ·パラベルは、ハーバード大学の感覚民族誌学研究所で映像作家として共同制作を行っている。彼らの映画やインスタレーションは、AFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)、BAFICI(ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭)、ベルリン、CPH:DOX(コペンハーゲン国際ドキュメンタリー映画祭)、ロカルノ、ニューヨーク、トロント、ヴェネチアなどの権威ある映画祭で上映されており、近年、MoMa(ニューヨーク近代美術館)や大英博物館などの美術館のパーマネント·コレクションに加わり、ロンドンのテート·モダン、ニューヨークのホイットニー美術館、パリのポンピドゥー·センター、ベルリンのクンストハレ(独自コレクションを持たないギャラリー)などで展示されている。2012年、『リヴァイアサン』はロカルノ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞したほか、世界中で数々の賞を受賞した。『Somniloquies』(17)はARTEで放送され、2017年にはベルリン国際映画祭で上映された。『カニバ パリ人肉事件38年目の真実』(17)は第74回ヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞したほか、多くの賞を受賞した。『人体の構造について』(22)は、彼らのコラボレーションから生まれた4作目の作品である。
COMMENT
朝比奈秋
作家<『サンショウウオの四十九日』で第171回芥川賞受賞>・医師
発達した医療ほど、
身体のグロテスクさをあらわにする。
伊藤潤二
漫画家
人体組織という小宇宙に潜り込んで目撃する手術映像は
まるでイリュージョンです。
それに対する外界=病院の
厳しい現実に目眩を覚えました。
布施英利
解剖学者・美術批評家
パリの病院、最先端技術のカメラが潜入したそこには
「人体」があった。
…アンドレアス・ヴェサリウスの
『人体の構造について』(1543年)の出版から約500年。
ここに新しい人体の映画が誕生した。
南杏子
作家・医師
あまりにもリアルな映像に、
医師としての日常がオーバーラップする瞬間が何度もあった。
目が離せず、
やがて仕事が積み重なったときのように疲れてくる。
医療者でない人々に耐えられるのか。
そう心配した瞬間、一気に画面が切り替わり、
別世界に吸い込まれた。
とてつもない解放感、とてつもない心地よさ。
こんな体験は初めてだ。
養老孟司
東京大学名誉教授
ふだんは見られない手術時の
臓器や内視鏡の画像が見られる。
これは貴重な体験になると思う。
存在するものは存在するとして、
視ることに慣れるのが大切だと思う。