INTRODUCTION作品紹介
パレスチナとイスラエル――立場を越えて手を取り合う。ふたりの若きジャーナリストに、世界中が声援と喝采!!
イスラエル軍による破壊行為と占領が今まさに進行している、ヨルダン川西岸のパレスチナ人居住地区<マサーフェル・ヤッタ>。
本作は、この現状をカメラに収め世界に発信することで占領を終結させ故郷の村を守ろうとするパレスチナ人青年バーセル・アドラーと、彼に協力しようとその地にやってきたイスラエル人青年ユヴァル・アブラハームの2人による決死の活動を、2023年10月までの4年間に渡り記録したドキュメンタリーだ。
監督は、彼ら自身を含むパレスチナ人2人・イスラエル人2人による若き映像作家兼活動家の4人。「イスラエル人とパレスチナ人が、抑圧する側とされる側ではなく、本当の平等の中で生きる道を問いかけたい」という彼らの強い意志のもと危険を顧みず製作された。
スマートフォンや手持ちカメラを使用した、そこで暮らす当事者だからこそ捉えることのできた至近距離からの緊迫の映像で、住民たちが家や小学校、ライフラインを目の前で破壊され強制的に追放されていく、あまりに不条理なパレスチナの現実をあぶりだしていく。
しかし、本作が映し出すのはその惨状だけではない。バーセルとユヴァルという同じ年齢の青年2人が、共に過ごし対話を重ねることで、政治的背景や立場を越えて“命がけの友情”が生まれる奇跡的な瞬間だ。彼らの姿は、「どうしたら人は分かり合えるのか?」という問いへの一筋の希望を、私たちに与えてくれるに違いない。
今年2月のベルリン国際映画祭では最も大きな盛り上がりを見せた1作となり、上映後に観客席から割れんばかりの拍手が沸き起こるとともに、パレスチナへの連帯を示す声が瞬く間に重なっていき大合唱へと発展した。
見事に最優秀ドキュメンタリー賞&観客賞をW受賞し、バーセルとユヴァルが揃って登壇した受賞スピーチは同映画祭のハイライトとして大きな話題を集めるも、イスラエル擁護の姿勢を示すベルリン市長などからの激しい非難にさらされた。今なお世界中で大きな論争が続いているが、監督たちは精力的に活動を続けている。
STORYストーリー
ヨルダン川西岸地区のマサーフェル・ヤッタで生まれ育ったパレスチナ人の青年バーセルは、イスラエル軍の占領が進み、村人たちの家々が壊されていく故郷の様子を幼い頃からカメラに記録し、世界に発信していた。そんな彼のもとにイスラエル人ジャーナリスト、ユヴァルが訪れる。非人道的で暴力的な自国政府の行いに心を痛めていた彼は、バーセルの活動に協力しようと、危険を冒してこの村にやってきたのだった。
同じ想いで行動を共にし、少しずつ互いの境遇や気持ちを語り合ううちに、同じ年齢である2人の間には思いがけず友情が芽生えていく。しかしその間にも、軍の破壊行為は過激さを増し、彼らがカメラに収める映像にも、徐々に痛ましい犠牲者の姿が増えていくのだった―。
DIRECTORS監督たち
Basel Adra
バーセル・アドラー
1996年生まれ、パレスチナのヨルダン川西岸地区マサーフェル・ヤッタ出身。ジャーナリスト、映画監督。 15歳から活動家、ドキュメンタリー作家としてイスラエル軍による故郷の強制追放と闘う。マサーフェル・ヤッタ在住。
Yuval Abraham
ユヴァル・アブラハーム
1996年生まれ、イスラエルのベエルシェバ出身。エルサレムを拠点に活動する映画監督、調査ジャーナリスト。
Hamdan Ballal
ハムダーン・バラール
パレスチナのヨルダン川西岸地区スシヤ出身。写真家、映画監督、農家。反占領人権団体の調査員としても活動している。マサーフェル・ヤッタ在住。
Rachel Szor
ラヘル・ショール
1996年生まれ。エルサレムを拠点に活動するイスラエル人の撮影監督、編集者、ディレクター。
REVIEW海外レビュー
COMMENTコメント
仲野太賀
俳優
知識や情報だけで人の痛みなどわかるはずがない。この映画に少しでも興味を持った人がいるのなら、迷わずに見てほしい。
パレスチナの現状を決死の覚悟で届けようとした、命懸けの記録をどうか心に留めてほしい。
奈良美智
美術作家
当たり前だがリハーサルも撮り直しも無いドキュメンタリーだ。スクリーンに映し出されるのは、常に直面する余地の無い選択の数々と厳しい現実。観る者の心に葛藤や希望が乱雑に入り込んできて息が苦しくなるだろう。しかし、それは彼らの「故郷」における現実に違いないのだ。
有働由美子
アナウンサー
2018年夏私はイスラエル兵から銃口を向けられた。立ち退きを迫られたパレスチナ側で撮影していた。それだけの理由で。この映像に映る全てをしっかり受け止めたい。
空音央
映画監督
映画は教えてくれる。イスラエルの暴力の本質は占領だ。私達も無関係ではない。実際、私達の年金もイスラエルに投資されている。怒りを感じたら行動しよう。映画でバーセルが言う「水1滴ではダメでもしずくが続けば変わる」私達もしずくになろう。パレスチナが解放されるまで。
岩井俊二
 
住居を破壊し、井戸にセメントを流し込む入植者達の理不尽。
観る側にも相当な苦痛を強いる。だからこそ観るべき映画だ。
森達也
映画監督
理不尽で無慈悲な虐殺や戦争はガザだけではない。パレスチナの民の受難と絶望。僕たちは目撃し続けている。それなのに状況はもう何十年も変わらない。この映画は告発であると同時に希望も示す。一人でも多くの人に観てもらいたい。そして声をあげてほしい。
想田和弘
映画作家
余計な装飾や解説を排した、無骨ともいえる生の映像。
そこに映し出された、パレスチナのあまりにも過酷な現実。
あの「10月7日」以前にして、このありさまだ。
何とかしなくてはいけない。
しかしいったい何ができるのか。
パレスチナ人とイスラエル人の映画作家の間に芽生えた友情と理解と信頼だけが、一筋の光のように思える。
奇妙礼太郎
ミュージシャン
僕は彼らをあっという間に忘れて暮らす。
そういう残酷さがこの映画のすぐそばにある。

そこから先を委ねられている。
七尾旅人
シンガーソングライター
あなたの人生の中の90分間だけでいい、この映画のために立ち止まってほしい。

「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」はヨルダン川西岸地区で進行し続けてきた苛烈な人権侵害をかつてない臨場感で捉えながら、パレスチナ/ユダヤの2人の青年を通して、決して相容れないはずの魂を架橋しようとする。

国際社会で、街で、家庭で、ソーシャル・メディアで、さまざまに分断された私たちは、もういちど互いに橋をかけ合うことを夢見る。
安田菜津紀
メディアNPO Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト
パレスチナの人々の土地を、尊厳を、そして命を、根こそぎ奪い去る、占領の不条理が、この映画に凝縮されている。
これを民族浄化と呼ばず、なんと呼べるだろう。そして、問われる。この悲鳴に、無視を決め込む世界でいいのか――。
金平茂紀
ジャーナリスト
イスラエル軍のブルドーザーが人々の営みを容赦なく破壊していく。ここまで人間は非道になれるのか。と同時に、それに抗う彼我の友情がある。私たちはただの観客か? 黙っていていいはずはない。
増田ユリヤ
ジャーナリスト
パレスチナとイスラエルの和平は実現不可能なのか。幾度となく潰えた希望を、今だからこそバーセルとユヴァルの友情に託したい。
ISO
ライター
報道で見かける「占領」という言葉の向こうに存在する、生存権を剥奪される人々の姿を知る。その第一歩のための命懸けの襷。エンドロールの先で、更に悪化する占領と虐殺に世界はどのような態度を取るのか。監督たちの眼差しはこちら側に向けられている。どうか、知ってほしい。
町山智浩
映画評論家
ヨルダン川西岸で暮らすパレスチナの人々の家を破壊するイスラエル軍。子どもが泣こうと容赦せず、抵抗する者を銃撃する。あまりに絶望的な状況を撮り続ける監督とユダヤ人ジャーナリストの友情に小さな希望が。
吉田恵里香
脚本家・小説家/連続テレビ小説「虎に翼」、アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」
今起こっている恐ろしい出来事を私達は「遠い国のことだから」とか「わたしたちには関係ない」とかつい言い訳をして目を逸らしてしまう。
だが目を逸らすという行為は、誰かから責められない程度にじんわりと戦争と虐殺を肯定していくことではないのか?
この作品にも、つい目を逸らしたくなることが詰まっている。
でも、私達はきちんと向き合わなければならない。
戦争を理由に、あらゆる暴力と不条理が肯定されてはいけない。
尊い命が奪われてはならない。戦争と虐殺にNOを言わなければならないのだ。
松尾潔
音楽プロデューサー・作家
若き映像作家にして活動家のバーセルとユヴァル。
相反する出自のふたりの命をかけた友情にパレスチナとイスラエルの和平を夢見てしまうのは、そこから遠く離れて暮らす者ならではの「お花畑」なのか。
そうではないと信じたい。ならば、映画を観終えたら始めなければいけないことが、私たちにはあるはずだ。
坂本美雨
ミュージシャン
私たちはこのあとどうなるかを知っている。
そして今この瞬間も、パレスチナの破壊と侵略が続いている。
祖父母の代から無視されてきた声をやっと聞き、何が起きてきたかを知った私たちが、どう行動するのか。
この映画が希望となるかどうかは私たちにかかっている。
※順不同/敬称略