劇場公開作|TRANSFORMER

娘は戦場で生まれた

2020年2月29日(土)公開

母は銃のかわりにカメラを手に取った。
世界に伝えるため、そして戦火で生まれた小さな命のために。

死亡者が数十万人にものぼるとされ、第二次大戦後史上最悪の人道危機とも言われるシリア内戦。『娘は戦場で生まれた』の背景となるのは、この内戦において、2012年から2016年にかけて起きた大都市アレッポでの未曽有の戦闘である。シリア北部のアレッポは、首都ダマスカスを上回る人口を有するシリア最大の都市。この地の支配をめぐって、大統領バッシャール・アル=アサド率いるシリア政府軍と、自由シリア軍やヌスラ戦線(アルカイーダ系)を中心とする反体制派が、市内を東西に分断し、長期にわたって激しい軍事衝突を繰り返したが、最終的には政府サイドが勝利を収めた。
このドキュメンタリーは、主人公であるワアド・アルカティーブが手にするカメラの映像を通して、2012年から2016年までの間の時間軸を絶えず往還しながら、アサド政権によって、美しい景観を誇っていたアレッポの街が無残にも破壊され、朽ち果てた廃墟に変わり果ててしまった過酷な現実を、仮借ないまなざしで描き出す。 
冒頭、18歳のワアドの初々しくも美しい表情をたたえたポートレート写真に、「両親は私が頑固で無鉄砲だといつも言っていた。その意味が分かったのは、娘ができてからだった」という彼女自身のナレーションがかぶさる。と、あどけない表情のサマのクローズアップに変わる。だが、そんな至福にあふれた場面もつかの間にすぎず、すぐさま耳をつんざくような衝撃音とともに、血まみれになった子供や大人たちが運び込まれ、その多くは床の上で息絶えるという阿鼻叫喚の光景が現出するのだ。
映画は、激しい戦闘によって破壊される街並み、そこで日々起こっている悲惨極まりない光景を次々に映し出す。アサド政権によって拷問を受け、頭を撃ち抜かれ、虐殺されたおびただしい数の遺体が大きな窪みに投げ出される光景に戦慄を覚えない者はいないであろう。
さらに、ロシア軍の空爆によって幼い息子を殺された母親が、その死体をかき抱いたまま、気がふれたように息子の名前を叫んで街路をさまよっている。その光景に、ワアド自身の「あの少年にあなたを重ね、母親に私を重ねる」という独白が重なる時の、深い悲哀感は名状しがたい。いっぽうで、ハムザが全身の損傷が激しい妊娠9か月の女性を帝王切開し、取り出したもの言わぬ赤ん坊が、蘇生して泣き出す瞬間、「母子ともに無事であった。これは奇跡だ」というナレーションが流れると不意打ちのような感動を覚えるだろう。

STORY|ストーリー
いまだ解決をみない未曽有の戦地シリア、アレッポ。ジャーナリストに憬れる学生ワアドは、デモ運動への参加をきっかけにスマホでの撮影を始める。しかし、平和を願う彼女の想いとは裏腹に、内戦は激化の一途を辿り、独裁政権により美しかった都市は破壊されていく。そんな中、ワアドは医師を目指す若者ハムザと出会う。彼は仲間たちと廃墟の中に病院を設け、日々繰り返される空爆の犠牲者の治療にあたっていたが、多くは血まみれの床の上で命を落としていく。非情な世界の中で、二人は夫婦となり、彼らの間に新しい命が誕生する。彼女は自由と平和への願いを込めて、アラビア語で“空”を意味する“サマ”と名付けられた。幸せもつかの間、政府側の攻撃は激しさを増していき、ハムザの病院は街で最後の医療機関となる。明日をも知れぬ身で母となったワアドは家族や愛すべき人々の生きた証を映像として残すことを心に誓うのだった。すべては娘のために…。
CAST&STAFF|キャスト&スタッフ
監督ワアド・アルカティーブ、エドワード・ワッツ
出演ワアド・アルカティーブ、サマ・アルカティーブ、ハムザ・アルカティーブ
INFORMATION|作品情報
2019年/イギリス、シリア映画/アラビア語/100分/英題: FOR SAMA/日本語字幕:岩辺いずみ/字幕監修:ナジーブ・エルカシュ/G区分
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