
※このページには「ネタバレ」を含む記述がございます。
本編ご鑑賞後にご覧くださいますようお願いいたします。
つい深読みしたくなる・・・
深淵な
『グリーン・ナイト』
の世界にようこそ

A24とファンタジー映画
ジャンル映画をアートの域まで高めてヒットに導き、ハリウッドにおける唯一無二の立ち位置を確立した映画製作・配給会社A24。中でも『ウィッチ』(15)、『ヘレディタリー/継承』(18)、『ライトハウス』(19)といったホラー作品における超常表現は印象深い。A24初の本格ファンタジーである本作も、音楽面では意識的にホラー調。そこに『ウィロー』(88)といった往年のファンタジー映画を愛するデヴィッド・ロウリー監督が想像力を羽ばたかせた斬新なビジュアルも重なり、まさに“A24版『ロード・オブ・ザ・リング』”とでもいうべき異形の傑作が誕生した。
アーサー王伝説映画
これまで幾度となく映画化されてきたアーサー王伝説。マシュー・ヴォーン監督の『キングスマン』(14)シリーズ等、設定や人物名を引用した作品も含めれば枚挙に暇がない。ロウリー監督がとりわけ好きだと語る2作品がロベール・ブレッソン監督の『湖のランスロ』(74)とコメディ映画『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(75)。また、同じアイルランドで撮影され本作と偶然ロケ地が重なったジョン・ブアマン監督の『エクスカリバー』(81)も彼にとって重要作だという。ガイ・リッチー監督版『キング・アーサー』(17)にも好きな要素があるとのこと。
ガウェインと映画
原作では「礼節の権化」とも呼ばれる高潔な騎士として描かれたガウェイン。アーサー王映画最高峰のひとつとして名高い『エクスカリバー』で彼を演じたのは、若き日のリーアム・ニーソン。本作と同原作の『まぼろしの緑の騎士』(73・未)でガウェインを演じたのはマレー・ヘッド。『勇者の剣』(84・未)では主演のマイルズ・オキーフがショーン・コネリー演じる“緑の騎士”と相対した。伝説を史劇として再解釈したアントワーン・フークア監督版『キング・アーサー』(04)でガウェイン役だったジョエル・エドガートンは、その事実も踏まえて本作では城主役に配役されている。しかし今回デヴ・パテルが演じた主人公は、まだ騎士ですらない……。
トロイ
本作のオープニングクレジットにおいて登場する男女2人は、トロイの王子パリスと彼が駆け落ちしたスパルタ王妃ヘレンという設定。本作の原作となった「サー・ガウェインと緑の騎士」もトロイに関する記述から始まっている。アーサー王が治めたブリテンはトロイ王家の子孫ブルトゥスが建国したとされており、アーサーの甥であるガウェインもまた同じ血筋ということに。
母と息子
本作で描かれるガウェインと彼の母親(サリタ・チョウドリー)の描写にはロウリー監督自身の母子関係が投影されているという。本来アーサー王伝説ではガウェインの母親はアーサー王の異父姉モルゴースとされている。ところが本作独自の設定として、伝説においてはアヴァロン島に住む9人姉妹の長女でモルゴースの姉にあたる、魔女モーガン・ル・フェイがガウェインの母となっている。
モーガンの魔術
本作においてガウェインの母親がモーガン・ル・フェイに変更されたことで、彼女とその姉妹たちが“緑の騎士”を召喚する魔術は“放蕩息子に母が課す試練”という側面を帯びる。ロウリー監督によれば、本作におけるモーガンは古き世界の魔術と異教信仰を象徴する存在でもあるという。
緑色
本作において“緑”は自然の魔法を表し、“自然と文明の対立”を描いた映画のテーマを象徴。 “緑”と補色関係にある“赤”はより邪悪な闇魔法の色で、かの魔術師マーリンが登場する場面等で赤い光が灯っている。ロウリー監督曰く、本作における“緑の騎士”は『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』(02)に登場した木の牧人=エント、そして自身の過去作『ピートと秘密の友達』(16)に登場した緑色のドラゴン=エリオットの“従兄弟”という位置づけ。エントやエリオットはCGIを駆使して描かれていたが、本作では『ウィッチ』のラルフ・アイネソンが特殊メイクを施されて実写撮影で “緑の騎士”を熱演している。
首切りゲーム
クリスマスの宴に闖入した“緑の騎士”が円卓に持ちかけた“遊び事”。その一騎打ちのルールは次の通り…… 「武器をとり名誉をもってわしに一撃を加えろ。傷を与える者にこの戦斧を進呈しよう。栄誉と力はその者の手に…… だが、その者は誓わねばならぬ。わしを倒したなら1年後のクリスマスにわしを捜し出せ。北へ6夜行った緑の礼拝堂で、ひざまずいてわしの一撃を受けろ。顔への傷、喉の切り裂き…… やられたままやり返し、信頼と友情と共に別れよう」。この“首切りゲーム”は異教文化=ケルト文化に根差したモチーフで、本作のロケ地アイルランドの伝承「ブリクリウの饗宴」にも登場している。
五芒星
本作に登場するアーサー王と円卓の騎士たちは、五芒星が刻まれた首飾りを身に着けている。中世において「ソロモンの印章」とされた五芒星は、原作ではガウェインが使っている紋章。これは“誠実”を表し、ガウェインが寛容・友愛・純潔・礼節・同情心という騎士道における5つの徳を持ち合わせていることを示す。騎士に憧れる本作の主人公はこの美徳を全くと言っていいほど備えておらず、原作とは正反対の立ち位置にいると言えよう。
聖ウィニフレッド
7世紀の聖女で“聖バイノ”の姪。求愛を断って刎ねられた彼女の首が坂を転がり落ちて止まった先で、泉が湧き出して井戸に。聖バイノの祈りによって首がつながって生き返ったウィニフレッドは生涯を信仰に捧げた…… そんな伝承が伝わる“聖ウィニフレッドの井戸”は、北ウェールズの有名な巡礼地。本作ではこの聖女の名を持つ神秘的な女性がガウェインの前に姿を現し、彼に試練を与える。ロウリー監督は原作で挙がっていた地名ホリーヘッドから着想を得て彼女を登場させたという。
巨人
原典ではわずかに言及されるだけだった巨人が、本作ではガウェインの面前に出現。『ロード・オブ・ザ・リング』の原作者J・R・R・トールキンによる原作の現代語訳「サー・ガウェインと緑の騎士:トールキンのアーサー王物語」においては、巨人のくだりで「ホビットの冒険」や「指輪物語」でもお馴染みの怪物“トロル(巨鬼)” “オーガ(人食い鬼)”という訳語が当てられていた。また、トールキンは作品世界を指して“ミドルアース(中つ国)”という表現も使用。
目隠しをした老婆
城にいる目隠しをした老婆は、原作では全ての黒幕であるモーガン・ル・フェイ。さらに、ガウェインを誘惑する“城主の奥方”と老婆はモーガンが2人の女性になった存在だという説もある。しかし本作の場合、モーガンはガウェインの母親として別途登場済み。そしてガウェインの恋人エセルと奥方はアリシア・ヴィキャンデルが一人二役で演じている…… 果たしてこれらが意味していることとは?
貞節と城主とのキス
城主はガウェインに“獲物の交換”という取引を持ちかける…… 「私は明日もその翌日も狩りへ…… 森の獲物の中で最上のものを君に贈ろう。君はここで得られる最上のものを私に贈れ」。原作におけるガウェインは奥方から受けた誘惑をはねのけ、彼女に受けた口づけを返す形で自分から城主に接吻している。
腰帯
原作では城主の奥方がガウェインに絹の腰帯を授ける。「この帯を巻いている限り、いかなる猛者もその人を傷つけることができない」と聞かされたガウェインは、帯を受け取ったことを隠したまま“緑の礼拝堂”に向かう。しかし実は“緑の騎士”と同一人物だった城主によって彼は試されていたのだった…… この帯はガウェインにとって“貪欲”と“臆病”に負けた恥辱の証となり、彼は戒めとして生涯身に着けることを決意する。本作では旅への出発前、モーガンが息子に緑色の帯を託す。『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(17)のバリー・コーガン演じる盗賊によってガウェインは帯を奪われてしまうが、その後……。
英雄の旅
「千の顔を持つ英雄」で知られる神話学者ジョーゼフ・キャンベルが提唱した、古今東西の英雄神話に共通する構造。“英雄の旅”……所謂“ゆきてかえりし物語”という構造をアーサー王伝説、そしてトールキン原作「ホビットの冒険」「指輪物語」も有しており、ジョージ・ルーカスは『スター・ウォーズ』シリーズで、ジョージ・ミラーは『マッドマックス2』(81)、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)で脚本の下敷きにしていた。原作は “人格の完成された高潔な騎士が面目を失う”物語だったが、ロウリー監督は“未熟な若者が通過儀礼を経て成長する”という切り口に変更、より伝統的な“英雄の旅”といえる構造を本作に与えている。
日本発コンテンツへの影響
RPGの金字塔「ドラゴンクエスト」、アーサー王がヒロインの「Fate/stay night」に連なる「Fate/Grand Order」等の派生作品、「ミリオンアーサー」シリーズ、そして世界的ヒット作となった「エルデンリング:ELDEN RING」…… “中世ファンタジーの元型”ともいえるアーサー王伝説は東洋日本発のゲームでも繰り返しモチーフとなっている。小説や漫画の題材になった回数も数知れないが、特筆すべきは“ガウェイン”の名を持つ少年を主人公にした鈴木央のゴルフ漫画「ライジング・インパクト」で、鈴木氏はアニメ化もされた「七つの大罪」でもアーサー王伝説を下敷きに。あの宝塚歌劇団も「エクスカリバー〜美しき騎士たち〜」といった数々の舞台を上演してきた。
Text:キシオカタカシ