ストレイ 犬が見た世界
- 2022年3月18日公開
原題:STRAY
2020年/アメリカ/英語/72分/ビスタ/カラー/5.1ch/PG-12
©2020 THIS WAS ARGOS,LLC
犬はいつも何を見つめているのだろう?
彼らの視点で世界を覗けば、人はもっと犬が愛おしくなる――
殺処分ゼロの国トルコ・イスタンブールの街で暮らす野良犬たち。ここではまるで風景に溶け込むように、自然に人間と犬が共存生活を送っている。自立心が強くいつも単独行動の犬ゼイティン。フレンドリーで人懐っこく、街ゆく人たちに挨拶を欠かさない犬ナザール。そしてシリア難民の心の拠り所になっている愛らしい表情の子犬カルタル…。彼らの視点で街を見渡せば、人間社会が持つ様々な問題と愛に満ちた世界が同時に見えてくる。ほぼ全編に渡って犬の目線と同じローアングルで撮影され、ごく普通の街の風景さえも新鮮な驚きとなって映し出される本作。地上を視覚的、聴覚的に再構成し、高性能カメラが半年間追いかけた先の、知られざる世界とは――。犬と人間の絆が感動を呼ぶドキュメンタリーが誕生した。
舞台となるトルコは、世界でも珍しいくらいに犬との歴史や関係が深い国だ。20世紀初頭にあった大規模な野犬駆除という過去の歴史への反省から、安楽死や野良犬の捕獲が違法とされている国のひとつであり、動物愛護に関する国民の意識も非常に高い。2017年に、そんなトルコを旅した自身も愛犬家のエリザベス・ロー監督は、主人公となる犬ゼイティンと偶然に出逢い、「何か目的を持っているところに惹かれ、追いかけた」と言う。犬たちが自由に街を歩き、人間との共存社会を築いていることに導かれ、彼らに密着し、犬目線のカメラで追い続けたその世界は、想像を超えた信頼と愛に満ちていたのだった――。
動物と人間の関係性を新たな視点でとらえ、北米を代表するドキュメンタリー映画祭のひとつ、Hot Docsカナダ国際ドキュメンタリー映画祭で最優秀国際ドキュメンタリー賞を受賞、アメリカの辛口批評サイト・ロッテントマトでも96%フレッシュ!(2021.12.25現在)という数字をたたき出している本作の舞台は、トルコの首都・イスタンブール。幅わずか1キロのボスポラス海峡をはさんでギリシャと隣接し、ローマ時代から数千年にも渡ってシルクロード交易の主要な通過地として西洋と東洋の接点となってきた異国情緒たっぷりの街。長い間栄華を極めた面影が今もあちこちに色濃く残り、世界遺産も数多く存在する。そんな街中の、昔ながらのバザールやカフェ、路面電車の走る道、歴史的な建造物のそばを、縦横無尽に移動し、あちこちに姿を現すのは、多くの犬たちだ。そこで彼らは人間社会とは絶妙な距離を保ちつつ、節度ある態度で人々と触れ合う。人間の会話はほとんど登場しない本作では、カメラは常に犬の表情と足取りとコミュニケーションをつぶさにとらえ、やがてわたしたちも彼らの感情や表情におのずと引き込まれ、同調していくこととなる。犬たちの目線に合わせると、そこから見えてくるのは、高い知能と理性と愛にあふれた犬たちの姿と、高度に保たれているコミュニティの在り方だ。仲間に分け与え、見返りのない愛を注ぎ、許すことをそっと教えてくれるのだ。
映画では世界の狭間を見せるように、アレッポから逃がれてきたシリア難民の少年たちも登場する。ゼイティンとナザールを追ってたどり着いた瓦礫だらけの建設現場で、ロー監督は「犬という仲間がいなければ、シリアの少年たちは自分たちの国ではない街で、まるで漂流しているかのように感じたでしょう」と語る。そこでは犬たちも、犬を抱く少年たちにも安堵と優しさの表情があふれていたからだ。
また『ストレイ 犬が見た世界』には、人間以外の視線を中心に世界を視覚的、聴覚的に再構成しようという試みが積極的になされた。『リヴァイアサン』(12)や『モンタナ 最後のカウボーイ』(09) などの代表的な作品のサウンドデザイナーであるアーンスト・カレルとロー監督は、犬の聴覚を映画的に表現するための聴覚言語を開発したという。
人間だけが知性をもち、自分たちの視点や聴覚こそがすべてであるという思い込みから解放された、新たな世界の現出である。






















COMMENT
ローアングルの犬目線の撮影から見えてくる、犬に関するたくさんの新しい発見。
犬が街に普通にいるのが当たり前で、そこはナチュラルな愛情にあふれている。
彼らの尊厳を大切にしたうえで、人間以外にも動物がいるということが前提のコミュニティが作られているのが、すごく素敵でした。
地球に生きている生き物は人間だけではないということを前提にした社会基盤を作っていけたら、悲しいこともなくなっていくはず。
私たちが、もっと寛容になるには?この映画にはそのヒントが詰まっています。
二階堂ふみ(女優 / 『ストレイ 犬が見た世界』予告ナレーション担当)
ずっと観ていたい。
犬と崩れた壁と人の気持ちと。
わたしたちはゼイティンと一緒に街を歩き回る。
首輪を持たない、家を持たない、しかし、生きる意思を持って。
矢野顕子(ミュージシャン)
人に飼われない犬が、人を癒やす。
私たちが知らない国に、私たちの本当に求める犬たちがいる。
極めて「遠い場所」で、しかし、境界を平然と越える救いのようなものが存在しているさまに、とても打たれた。
古川日出男(作家)
野犬の捕獲&殺処分が違法である珍しい国トルコの裏路地を、犬目線の低さで追うカメラが捉える、シリア難民など、もうひとつのストレイヤー(はぐれもの)たち。
犬の透明な眼差しを借りてこの世界の実相を視る、稀有なドキュメンタリー。
七尾旅人(シンガーソングライター)
数年前に行ったイスタンブールではこの映画のとおり犬と人間が共存してました。
石野卓球(DJ/プロデューサー)
そこには、私の知らないイスタンブールと、私の幼年期の東京があり、世界内存在としての犬がいる。
斉藤洋(児童文学作家/「ルドルフとイッパイアッテナ」)
犬の視線が淡々と映し出すのは、人間がなかったことにしていることだ。
犬山紙子(エッセイスト)
犬も人も本来自由だ。
そこに社会の秩序を求めるとカオスが生まれる。
犬の視線で語るカメラワークが見事な視覚言語で迫ってくる。
宮崎学(自然界の報道写真家)
綺麗事ばかり言っていられないこの世の中で、難民と野良犬が、食べ物と温もりを分かち合う。
互いを信頼する眼差しに、勇気づけられました。
小川糸(作家)
犬の視点で見つめるイスタンブールのストリート。
私たちの街は彼らの目にどう映るだろう。
何も評価せず、全てを受容して生きる犬達に忘れていた事を思い出させてもらった。
友森玲子(ミグノンプラン代表/動物病院、動物保護団体運営)
イヌ、それは尊厳と優しさに満ちた無産者だ。
ヒト、それは利己主義や拝金主義に毒された情けない存在だ。
栗野宏文(ユナイテッドアローズ上級顧問)